豊かで成熟した市民社会という幻想:世界システム論
世界システム論は告げている。
西欧が発展したのは、一つの大きな有機体としての世界システムに世界を組み込み、各地を周辺化しながら中核として富を搾取したからであった。西欧を発展させるために、他の地域は発展を阻害されて、不平等な取引きを受け入れるしかなかった。
ブラック企業の根源は、産業革命という工業化の原点が、労働力の搾取なしではありえなかったことにあったのである。
各地に広がる政治的無関心の根源は、フランス革命の理念が、世界システムに世界を組み込むために利用されたにすぎず、ただの口実であることにあったのである。
西欧に市民社会が存在しているように見えるとすれば、それは世界システムの中核として世界各地から富を搾取することで、経済的に余裕のある中核地域を生み出しているからである。
世界システムという考え方に注目してみれば、法律とは中核と周辺を生み出す不平等を押しつけるためのものであることがわかり、マスコミは世界システムを強化する情報を流し続けていることがわかり、学校教育もまた世界中が中核になるという決して実現されない夢を持たせ幻惑しながらよい世界システムの中で世界システムの都合に合わせて努力する労働者を生み出すための存在であることがわかるのである。
すなわち、私たちはまず私たちが置かれている場所が世界システムのただ中であるという現実を認めないことには、一生を世界システムに捧げるだけの存在として生き空しく死んでいくことになってしまうのである。
人権活動家
慈善事業家
ジャーナリスト
教師
弁護士
警察官
起業家
投資家
もちろん私自身も含め
すべての人生を空しくするこのシステムについて
まずはよく知ろうではないか。
そうしてみれば、
つつましく、しかし毅然として生きること以外に
主体的な人生のないことに気づくことになるだろう。
豊かで成熟した市民社会などというものは訪れず
生物としての生き方だけがあるのだ。
『世界システム論講義』は、アメリカの社会学者・歴史学者、イマニュエル・ウォーラステインが提唱した世界システム論をわかりやすく解説した本である。
イマニュエル・ウォーラステインはユダヤ系アメリカ人であり、世界システム論講義も当初放送大学のテキストとしてまとめられているように、この本の内容自体は、どちらかといえば体制側に立った内容であるといえる。そのため、国際金融家たちが作りあげた中央銀行、株式、民主主義、マスコミなどの仕組みに一切触れていない点に不満が残る。しかし、人とは何か、文明とは何かを考えるうえで、欠かすことのできない知識を与えてくれる本である。
私たちは、人は他の動物たちとは一線を画した存在であると考え、また、植民地や奴隷があった頃とは大きく違う文明社会を作りあげたと考えるように教え込まれている。
だが、この本に描かれているのは、人は動物であり、文明の姿は帝国主義時代といっさい変化していないという事実である。