書評『明治の精神異説』
評価★☆☆☆☆
明治維新関連の本から、明治維新を否定的にとらえた本を見つけようと選んだ本ではあたが、そもそも岩波書店出版であることを見落としていた。
第三章「神経衰弱に明治の精神を読む」の「神経衰弱が流行した理由」から引用してみよう。
神経衰弱が増えたのは、第一に怨霊を恐れた日本社会にたくさんの怨霊があらわれ、宇宙人来訪を信じる現代アメリカ社会に、壁をすりぬけて侵入してきた宇宙人に誘拐された、念入りに性器を検査されたと言い張る女性が後を断たないのと同じ理由による。
つまり、神経衰弱を恐れる社会に神経衰弱が多くなったまでの話である。
しかし、神経衰弱の必要性がなければ人は神経衰弱にならないものである。
夏目漱石の神経症も、西洋の価値観をおかしいと感じつつ、それを表明できないまたは従っていくしかない状況が作りだしていたのではなかろうか。少なくとも、生きにくい人生を少しでも生きやすくさせようとしてきた江戸時代*を生きた人々にとって、一層生きにくくすることこそを是とするような西洋的価値観の押しつけは、神経症にでも逃げなくてはいられない状況だったのではなかろうか。
*『逝きし世の面影』