人はなぜ山に登るのか、その正解がわかった。
『アルピニズムと死―僕が登り続けてこられた理由』は、人生の意味について考える上でよい本だ。
そこにあるのは、生の実感だ。
山野井さんは、家族の悲しみや周囲への迷惑を考えていることの馬鹿らしさを見抜いている。
山野井さんは、死を恐れることの馬鹿らしさを見抜いている。
私たちは、自分自身が生きてはじめて自分を知ることができ、自分を知ることができて初めて他者を理解できる存在だ。人のことばかり考えていては自分自身が生きることなどできない。しかも、結局は、一人なのだ。確かに親は子を育ててくれたかもしれない、しかし、それが子のためであると考えたならばもう間違いなのだ。親は親のために子を育てただけなのだ。恩を感じる必要はなく、義理を感じる必要もない。
子を育てるときも同じだ。将来自分の面倒を見てもらおうとか、自分の達成できなかった夢を子に託すというのはもう間違いなのだ。動物たちの子育てと同じように、子が大きくなったら、勝手に巣だっていけばそれでいいのだ。
そんな考えを持ってこの本を読めば、山に登る意味はただひとつであることがわかる。それは、自分自身の命を実感するためなのだ。
かつてのように、人が野山に生きていた頃であれば毎日実感できていた生。それを感じることのできない社会だから、人は山に登るのだった。